新商品を市場に浸透させていく際、狙うべきターゲットとその対策を分析するために基本となるマーケティング理論が「イノベーター理論」と「キャズム理論」です。
対象商品が市場の中で現在どのようなポジションにあるのか、現在と未来にかけて狙うべきターゲットはどのような人たちなのか、そのためには、どのような訴求、施策を行うべきなのかという検討に役立てます。
イノベーター理論は、商品の普及率に関するターゲットを分類したマーケティング理論で、1962年にアメリカの社会学者エベレット・M・ロジャースによって提唱されました。
イノベーター理論では、消費者層を、新商品の採用時期が早い順に5つのグループ(イノベーター、アーリーアダプターアーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)に分類します。
この5つのグループは以下の図のように、ボリューム(人数)が分布し、それぞれに特徴があるとされています。
とくに新商品の普及を目的とする場合には、まず対象商品のターゲットがどのグループ属しているのかを確認し、マーケティング戦略や施策を検討することが有効です。
イノベーター理論の5つのグループの特徴や有効な訴求ワードは以下のようになります。
商品を最も早く採用する層で、情報感度が高く、新しさ・最先端技術などに最も価値を感じる傾向があり、細かいメリット・価格などにはそれほど興味を示さない点も特徴的です。
【イノベーターへの訴求キーワード】
・革新的な商品である
・最先端の存在である
・今までにない新技術
イノベーターほどの最先端性を追わないものの、情報感度が高く、流行可能性のある商品をいち早くキャッチするグループです。
自身の周囲にいるアーリーマジョリティやレイトマジョリティへの影響力が大きく、「オピニオンリーダー」や「インフルエンサー」と呼ばれることもあります。
単純に新しさのみを追うのではなく、具体的なメリットを考えて採用する傾向がある点が特徴的です。
【アーリーアダプターへの訴求キーワード】
・品質や機能性が高い
・流行の兆しがある
・従来よりも優れている
商品が世間で話題になってから反応するグルーブです。商品を市場全体へ浸透させる役割を担っており、その役割から「ブリッジピープル」とも呼ばれます。
テレビや世間などで話題の製品に反応したり、有名人が使っているモノを欲しがったりするなど、「流行に乗り遅れたくない」という気持ちが強いのが特徴です。
【アーリーマジョリティへの訴求キーワード】
・流行っている
・メリットがある
・評判がいい
・信頼している人に勧められた
・流行に乗り遅れたくない
新しいモノを購入することに対して消極的なグループのことで、「フォロワーズ」とも呼ばれます。
普及率が十分に高くなってから採用を検討するのが特徴で、新しい製品を採用している人が半数を超えていると確信したときに購入を検討する傾向があるとされています。
【レイトマジョリティへの訴求キーワード】
・みんなが持っている
・失敗がない
・一番人気である
5つのグループの中でも最も保守的なグループです。先進的なものに興味や評価が低く、むしろ古来のものを優先する志向があります。
「新しいモノや流行モノは好きではない」という気持ちがあり、十分な普及はもちろん、伝統的なレベルまで達してから採用を検討する人も多いと考えられています。
【ラガードへの訴求キーワード】
・定番のものである
・長い歴史がある
各グループについて、マーケティングの戦略や施策を検討にするあたって、基本的な考え方の例は、以下のようなものがあります。
誰よりも先に新しい情報を得ようとする姿勢があるイノベーターには、「先端の商品である」と認識してもらうことが有効です。
【マーケティング施策例】
・最新テクノロジーなどをいち早く発信するメディアに掲載してもらう(プレスリリース)
自身がレビューを行うことで、オピニオンリーダーとしての地位確立を目指す傾向があるアーリーアダプターには、彼らがレビューを作成したくなるような情報や機会を提供することが効果的です。
【マーケティング施策例】
・モニターとしての商品提供
・アンバサダーとしての活動支援
アーリーマジョリティは、アーリーアダプターのレビューに影響を受ける傾向があります。そのため、上記のようなアーリーアダプター対策がアーリーマジョリティに影響を拡げていくいくことを狙います。
【マーケティング施策例】
・人気のインフルエンサー(アーリーマジョリティ)とのコラボ
・専門性のある著名人を広告キャラクターに採用
その商品を過半数の人が使っていると感じたときに採用を検討する傾向があるレイトマジョリティには、みんなが使っている(使っていない自分は少数派)と感じさせることが有効です。
【マーケティング施策例】
・「みんなが使っている」という情報を広告やPOPに掲載する
・ユーザーレビューの多さをアピールする
・利用者アンケートの結果などを発信する
ラガードへの対策は、安心感や歴史を堅実にアピールすることが方向性です。しかし、ラガードは、新商品にほとんど興味を示さないため、マーケティング施策が効果を生まずにコストを無駄にする恐れもあります。
キャズム理論はイノベーター理論を基に語られるもので、市場拡大のマーケティング施策を検討する時にはとても重要な考え方です。
キャズム理論では、イノベーター理論をもとに、イノベーターとアーリーアダプターが多い市場を初期市場、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードが多い市場をメインストリーム市場と定義し、2つの市場の間には「大きな障壁=キャズム」があるとする理論です。
商品の市場拡大のためには、初期市場からメインストリーム市場に移行していく必要がありますが、その間にあるキャズムは一般的に超えることが難しく、同時にこのキャズムを越えることこそが市場拡大において重要だとしています。
キャズムが発生する主な原因は、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの価値観のギャップにあると考えられています。
具体的には、アーリーアダプターは「誰も使っていない商品を採用し、他者に先んじる」ことを望む層である一方、アーリーマジョリティは「多くの人が採用していて安心できる商品を採用し、他者に後れを取らない」ことを望む層である点です。
つまり、アーリーマジョリティは、市場全体の16%というイノベーターとアーリーアダプターのみにしか採用されていない状況では、商品の採用を踏み留ってしまうのです。
一般的には、このアーリーマジョリティの攻略が難しく、様々なマーケティング施策を検討していく必要があります。
キャズムを超えるための対策として、エベレット・M・ロジャース教授が提唱した「普及率16%の論理」があります。「市場の16%に位置づけられるイノベーターやアーリーアダプターの攻略が、その商品が普及するかどうかを左右する」というものです。
その商品が先進的なものであるならば、まずはその先進性を評価する16%の層を獲得することが必要であり、その際には、品質や安心感などよりも、如何に革新的であるか、先進性があるかなどを強調することになります。
イノベーターやアーリーアダプターを獲得したうえで、次のグループであるアーリーマジョリティ以降のユーザー獲得のための対策を考えることになります。
この時、キャズムを超えるためには、商品の価値評価を「先進性」から「安心感」へ変化させていかなければなりません。
そのための施策としては、商品の訴求テーマを変えて、信用性や品質をより強く訴求していくことになります。
【マーケティング施策例】
・ユーザーの中で発信力、影響力のある人からレビューなどを発信してもらう
・広く好感度の高い著名人を広告キャラクターとする
・より使いやすさや安心感が増したものへ商品自体をリニューアルする。